石牟礼道子

わし共、西郷戦争ちゅうぞ。十年戦争ともな。一の谷の熊谷さんと敦盛さんの戦さは昔話にきいとったが、実地に見たのは西郷戦争が始めてじゃったげな。それからちゅうもん、ひっつけひっつけ戦さがあって、日清・日露・満州事変から、今度の戦争――。西郷戦争は、思えば世の中の展くる始めになったなあ。わしゃ、西郷戦争の年、親たちが逃げとった山の穴で生れたげなばい。 ありゃ、士族の衆の同志々々の喧嘩じゃったで。天皇さんも士族の上に在す。下方の者は、どげんち喜うだげな。 。。。 。。。そういうふうで、どうしても下方の愚痴が開げんじゃった。それで、西郷戦争は嬉しかったげな。上が弱うなって貰わにゃ、百姓ん世はあけん。戦争しちゃ上が替り替りして、ほんによかった。今度の戦争じゃあんた、わが田になったで。おもいもせん事じゃった。